Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!トリップ付けるの推奨( No.834 )
  • 日時: 2014/04/04 18:25
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: 4GYXC2eh)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 十五章 激闘の先に待つ結果 

「ニャアァッ!?アストォォォォォッ!」
 セージは爆風に仰け反りながらも、アストの名を叫ぶ。
 まさか、いくら間に合わないと言ってゼロ距離で起爆するバカがいるとは思わなかったのだ。
 爆煙が晴れてくる。 
 その向こうから現れたのは、盾をしっかりと構えてガードしていたアストと、爆撃によってその大きな耳を中途半端に壊されたイャンクックの姿だ。
「〜〜〜〜〜……やっぱすげぇ威力だな」
 アストは軽く咳き込む。
 正直なところ、鼓膜は破れそうで、右腕は燃え付きそうなくらい熱い。
 それでも、ライラの鍛え上げたソルジャーダガーの盾は、しっかりとアストを守ってくれていた。
 イャンクックもまた、自慢の耳を破壊されてもなお、アストに殺意を向けている。
「お前、爆弾直撃したのに何で生きてんだか……」
「クワワッ、クワアッァァァァァッ!」
 そんなもので俺を倒せると思うな、とでも言っているかのようにイャンクックは威嚇する。
 しかし、イャンクックとて無事ではないだろう。あれだけの爆発を直撃して、全く無傷なわけがない。
 アストはポーチからペイントボールを取りだし、再びイャンクックに当てておく。
「こっちも後がないんだ、決めさせてもらうぜっ!」
 アストは続けて回復薬も飲み干すと、ソルジャーダガーを構え直してイャンクックと対峙する。
「その後を無くしたのはお前自身だろうがニャ……」
 セージも呆れながらラギアネコアンカーを手のひらで遊ばせる。
 自爆とも言える行動に出たのだ。イャンクックへダメージは与えているが、本人へのダメージももちろんある。
 体力にも後が無いのは否定できない。
「クォワァァッ……」
 イャンクックもアストとセージを威嚇し、小さく足踏みする。
 そのエリアに、沈黙が流れる。
 アストとセージ、イャンクックも共に動かない。
 その一触即発の瞬間がいつまで続いたのだろうか。
 不意にイャンクックは羽ばたいて、上空へ飛び立った。
「野郎っ、また逃げる気か!」
 アストは歯噛みしてイャンクックを見上げていた。
 ペイントは当て直してある。このまま臭いを追えばいい。
 だが……
「……あれ?臭いが、遠くなって……えっ?」
 アストは鼻を鳴らしてみるが、ペイントの臭いを嗅げなくなってしまった。
 セージは冷静にこの場の状況を読み取った。
「どうやら、この辺にはいなくなったようだニャ」
「ちょっと待て、それってまさか……」
 アストの中でまさかの展開が想定される。
「逃げたニャ。この未知の樹海ではないどこかに」
「なっ、何だよそれぇっ!?」
 セージはアストの疑問に対して説明で返す。
「この未知の樹海で見つかるモンスター特有の習性ニャ。自分にとって、ここを縄張りにすべきではニャいと判断すると、この地を離れてしまうのニャ」
 セージの説明が確かなら、あのイャンクックは人間が踏み込んで来るようなここは縄張りに適当ではないと、そう感じたのだろうか。
「マジかよ!?せっかく追い詰めたのに、何も無しかよ……」
 アストは膝を地面に着けて落胆する。
 後少しの所でどうにもならなくなるほど、悔しいものはない。
「ん、そうでもニャいがニャ」
 セージはあくまで冷静だ。
 その指(肉きゅう?)をある方向へ向けて指す。
「じゃあ、アレは何ニャ?」
「えっ?」
 アストはセージの指先を見る。
 何かが落ちていた。
 アストはそれに近寄ると、手に取ってみた。
 ボロボロだが、扇の形をしたそれは……
「まさか、イャンクックの耳か!?」
 なぜこんなものが、と思ってからすぐに思い当たる節が見つかった。 
 アストの支給用大タル爆弾だ。あれを顔面に直撃しての結果なのだろう。それなら納得もいく。
「これで、目的は達成したニャ?」
「え、でも、イャンクックは仕留め切れなかった……そうか!」
 そう、この探索の目的はモンスターの狩猟ではなく、そのモンスターの証拠を入手することだ。
 こうして怪鳥の耳が入手出来た以上、ギルドも納得するはずだ。
「ようやく気付いたかニャ。ま、これも経験ニャ」
 セージはラギアネコアンカーを背中に納める。
 だとしても、アストは握り拳を震わせていた。
「あー、でも逃がしたってやっぱ悔しいな……くっそおぉぉぉぉぉっ!!」
 アストはその握り拳を地面に叩きつけた。
 そんな彼を諭すセージ。
「んなこと、ハンターやっていればいくらでもあるニャ。それより、さっさと帰還の荷車が待つエリアへ急ぐニャ。他のモンスターが乱入されちゃたまらんニャ」
 ここは『未知の』樹海だ。他にも大型モンスターが潜んでいないこともない。
 消耗した今からまた大型モンスターと遭遇するのはまずい。
「……おう、そうだな」
 アストはソルジャーダガーと怪鳥の耳を拾うと、立ち上がった。

 鬱蒼とした雑木林のその先。
 目の前に広がるは、夕焼けに染まる朱い空とその夕陽を照り返す広い広い河が流れている。
 左手に見えるは、荷車だ。その側にはその牽引役だろう、アプノトスが静かに草を食んでいた。
「ここがゴールか」
 アストは夕焼けに目を細めながら、呟いた。
「あぁ……なんかすげぇ疲れたな……」
「おい、寝るなら荷車の中で寝ろニャ。こんな所で寝られては困るニャ」
 セージはアストの背中を叩いてやる。
「ん……あ、でもアプノトスの手綱押さえないと……」
「それくらいオレがやるニャ。お前はゆっくり寝とけニャ」
 アストはアプノトスを一瞥し、セージは手綱役を進んで買って出る。
「おぉ、そっか。じゃ、頼むな」
 アストはふらふらと荷車に入り込み、荷物を下ろすと、直ぐ様死んだように眠った。
 それを確認してから、セージはアプノトスを手懐け、手綱を噛ませる。
「ニャッ」
 セージも荷車に乗り込むと、軽く手綱を打ってアプノトスを歩かせる。
 夕陽が傾いていく中、セージは時折振り返って眠っているアストを見やる。
「……呑気なヤツニャ」
 口の中でそれだけを呟いた。

 ふとどこかで、人の嘆きのような咆哮が聞こえたような気がした。