Re: モンハン小説を書きたいひとはここへ!トリップ付けるの推奨( No.860 )
  • 日時: 2014/04/07 13:40
  • 名前: ダブルサクライザー ◆4PNYZHmIeM (ID: Nj7YK075)

 モンスターハンター 〜輪廻の唄〜

 十八章 新たな防具、クックシリーズ

 ナグリ村行きが決定し、ミナーヴァは移動の準備を整えていく中でライラは黙々とクックシリーズを作り上げていった。
 その日の夕方、アストはライラに呼び出されて工房に来ていた。
「クックシリーズ、出来たのかな」
 アストの内心は期待と興奮に満ちていた。
 何せ、ようやく防具らしい防具を身に付けられるのだ。
 それでも大きな街では霞むような価値しかないクックシリーズだが、ハンターシリーズの倍かそれ以上の性能を持っている。
 喜び勇んで、アストは工房のカウンターにやってくる。
 ちょうど、ライラも待っていた。
「よっ、来たね。まぁ上がった上がった」
 ライラはそう言って工房の奥へ入っていく。アストもその背を追った。
 工房の奥には、防具を飾るために固定の木製の人形がある。
 白い布で覆われたそれは、静かに主を待っていた。
「早速ご覧いただこうか?」
 ライラはその白い布を一気に引き抜いた。
 その中から現れたのは、桃色のような赤色をした甲殻の甲冑だった。
 随所随所に青い紐飾りがあしらわれ、デザインにも力が入れられていることを思わせる。
「これが、クックシリーズ」
 アストはそれに近付き、人形から外して手に取ってみる。
 ハンターシリーズに比べても比較的軽く、そしてそれよりも遥かに頑丈そうだ。
「着けてみる?」
「はい」
 アストはクックシリーズを持って、工房の試着室へ入る。
 私服を脱ぎ捨てると、その下にあるのはインナーだった。ライラに呼び出された時点で、クックシリーズが完成していると思い込み、敢えて下着としてインナーを着けてきたのだ。
 ハンターシリーズとは多少の勝手は違うが、それでも手間取ることなく装備していく。
 数分後には、アストはクックシリーズに身を包まれていた。
「すげぇ、ぴったりだ」
 肘や膝、腰を回してみると、一切の妨げなくスムーズに関節が曲がる。
 事前にライラから身体の幅などを緻密に測定してもらっているのだ。ハンターシリーズでも身体測定はしてもらって入るが、ライラのそれはより正確だ。
「どうよ?アタシの作ったクックシリーズは?」
 カーテンの向こうからライラが声を掛けてくる。
 アストは嬉々とした声で反応する。
「不満も文句も申し分も無いくらい最高ですよ。何かもう、俺しか装備できないくらい」
「どんな防具だってそんなもんでしょ。ま、アタシが作ったって言うのもあるけどね」
 アストはカーテンを開けて、ライラにその姿を見せた。
「似合ってますか?」
 ライラはそのクックシリーズを身に付けたアストをしばし眺めた後、軽くため息混じりに答えた。
「まだ防具に装備させられてるって感じだねぇ」
「あはは。それも今だけですよ。すぐに使いこなして見せますから」
「おぉ?ちっとは言うようになったじゃん?」
 ライラはアストにヘッドロックを喰らわせてやる。
 別に痛くはないので、アストは痛がることなくそれを受ける。
「ライラー、ちょっといいー?」
 表からカトリアが呼んでくる。
「っと、カトリアか。ほら、行くよ」
「はい」
 アストとライラは工房の奥を出る。
 その間際、アストはふとあるものに目がついた。
 端の方にある、古めかしい箱だ。
 アストは興味本意でその古めかしい箱に近付こうとするが、後ろからライラにグッと肩を掴まれる。その場から動くことも出来ないくらい、強い力だ。
「そいつに触んな」
 聞いたこともないような、ライラの冷たい声色がアストの興味を失わせた。
 そのライラの目は、ある種の殺意すら滲んでいるように見えた。
 あれに何があるかは知りたかったが、ライラの様子から自分が触れてはならないことは何となくは感じていた。
 そのままライラに引っ張られるように、奥から連れ出された。
「やー、悪い悪い。このバカにクックシリーズ着せてたもんだから」
 カトリアの前に出ると、ライラはいつもの口調に戻り、クックシリーズのアストをカトリアの前に持ってくる。 
「それ、言ってたクックシリーズ?」
 カトリアはアストとライラを見比べながら、アストに訊く。
「は、はい。作れました」
 先程のこともあってか、アストは緊張しながら答える。
 カトリアもアストのクックシリーズを見詰める。
「うん、似合ってるよ。やっとハンターらしくなってきたね」
「あ、ありがとうございます」
 カトリアの頷きに、アストは照れたように頭を下げる。
 ライラとカトリアは向き直りあい、話の本題に入ろうとしていた。
「ライラ、今からとは言わないけど、ナグリ村へ移動するための準備、どれくらいかかりそう?もし辛いなら、明後日まで伸ばせるけど……」
「んー、昨日の朝から寝てないけど、今から一晩で片付けりゃ明日の朝には出れるよ。で、移動中は寝る」
 何と言う昼夜逆転。そもそも丸一日寝てないのだから逆転も何もないのだが。
「そっか。じゃあもうすぐ夕食だから、着替えるなら早くね」
 それを納得するカトリアもカトリアだ。最も、彼女を信用しているからの態度なのかも知れないが。
「はいよ。ほんじゃ着替えてくる」 
 それだけを交わすと、ライラは工房の奥へ戻り、カトリアはその場を後にする。
 一人残されたアストは、とりあえず自室の馬車へ戻ることにした。
 今日の日中でほとんど片付け終わっている。
 クックシリーズを外して、インナーも普通の下着に着替えると、それぞれの棚にしまっていく。
 ただ、先程のあの古めかしい箱と、そのライラの様子が気掛かりだった。
(他人に触れさせることも拒むだけのものか……何だろう、遺品とか?)
 それ以上考えるのも不謹慎なので、アストはそこで思考を打ち切った。

 ルピナスの作る夕食を食べ終え、入浴も済んだアストはまた自室のベッドで寝転がっていた。
「明日はついにここを出発かぁ。長いようで短かったな」
 今思い出すのは、ロックラック行きのはずが不慮でバルバレに流れ着き、そこで生活しようと思ったら部屋が借りれず、カトリアに拾ってもらい、セージとともにドスジャギィを、イャンクックを狩り、そして自らの手で新しい防具を手に入れることが出来た。
「明日も早いし、寝よっかな」
 毛布を引っ張り出し、灯りを消してその毛布に潜り込む。
 明日は、朝一番でこのバルバレを出るのだ。
 馬車の護衛をするのは、必然的にハンターたるアストの役目だ。
 責任を感じつつ、ゆっくりと睡魔に誘われていった。